今年4月に発表された、「スクール・ニューディール」構想の柱の一つに、学校でのICT化の推進がある。2009年6月に補正予算が成立し、単純計算で各校1100万円分の設備投資が可能となる。児童・生徒3.6人あたり1台の、また教員1人1台のパソコン、各校1台の電子黒板、全テレビのデジタル化などへの投資が期待されている。
しかし、教育現場に求められているのは、設備の導入だけでなく、その設備の活用でもあることは論をまたない。どうしたら宝の持ち腐れとせず、設備の特性を生かし、児童・生徒のための授業ならびに校務が可能になるのだろうか。
ICTの活用が進んでいることで知られる新潟県上越市での、実際の運用体制から学びたい。
上越市には小学校が54校、中学校が22校ある。それぞれ、すでに児童・生徒5.4人あたり1台のネット接続可能なパソコン環境が整っている。電子黒板も各校に最低でも1台が昨年夏に導入されている。
上越市立末広小学校校長で、3月まで市の教育委員会で指導主事を務めていた川住晴彦氏は、授業でのICT活用の目的を「わかる授業、魅力ある授業」であるという。現在の指導主事である藤田賢一郎氏も、同じ考えだ。川住氏は、「教育委員会に着任した時から、ハードウエアを入れるだけではダメだと思っていました。それを使うとどんな授業ができるかを、先生方と一緒に考える下地作りから始めました」と設備導入前後の時期を振り返る。
まず、上越市では、児童・生徒がパソコンに触れる時間の目標が設定されている点に注目したい。
小学校では低学年が、週に1時間、中高学年では週に2時間、中学校では週に3時間、コンピューター室を使った授業を実施できる環境の整備を行っている。5.4人あたり1台という数字は、この授業数を達成するためにパソコンを整備した結果だ。生活科や総合的な学習の時間などに、コンピューター室はフル回転で使われている。
学習指導要領に沿った授業以外にも、小学校低学年からパソコンやアプリケーションの使い方を教えるなど、コンピューター室を使い続けることが、 ICT活用を成功させる一つの秘訣だ。
もちろん、教える側の教員にも、それなりのスキルが求められる。上越市ではこれを、徹底した研修で解決した。
電子黒板の数が増え、普通教室でもパソコンと電子黒板を使った授業が増えている。電子黒板に関しても、研修を行っており、これは現在も続いている。この研修は特に人気で、すぐに募集定員がいっぱいになるほどだ。
上越市の小・中学校では、電子黒板は黒板と併用している。国語や英語では教科書に準拠したコンテンツ(デジタル教科書)を活用、それ以外の教科でも、航空写真を表示したり、図形を簡単に動かしたりと、従来の黒板だけではできなかった授業を展開中だ。
子どもたちにも、電子黒板をどんどん使わせている。授業では、学習したことを「整理し」「まとめ」「伝え合う」ツールとして活用している。授業で活用していれば、子どもたちは自然と操作を覚えるため、教室に設置されているクラスでは、日直が「朝の会」に電子黒板を使う姿も見られるようになってきたという。こうすることで、メリットが生まれた。機材が壊れることが少なくなったのだ。
かつて、パソコンだけを教室に置いていた時は、散々な目に遭ったという。元気のいいクラスほど、マウスのボールがなくなったり、キートップが行方不明になったりと、授業に活用する以前の問題が生じたのだ。
しかし、電子黒板の導入に伴い、子どもたちの間にパソコンは“自分たちのもの”という意識が高まり、大事に扱うようになった。
さらに、電子黒板に関しては、発信するだけなく、物事を深く考えるための一助にもなる点が興味深い。小学校では、電子黒板に運動会や校外学習の写真を映し出し、それについて児童たちに感想を言わせることもしている。かつて体験したシーンを思い出し、それを題材に語り合うというもので、電子黒板は情操教育にも最適なのだ。
ちなみに電子黒板は、導入当初プロジェクターを黒板中央の天井に吊り下げた。しかし、これだと電子黒板は黒板中央でしか使えず、黒板に板書できない。また、板書するために電子黒板を移動するとプロジェクターでの提示が見えなくなってしまった。そこで電子黒板とプロジェクターを一体化して、一緒に移動できるようにし、どこに移動しても利用できるようにした。切り替えた後の使い勝手は好評とのことだ。
したがって、入れた機材を使い続けること、そのために教える側のサポートを続けること、そして、やってみて不具合があればすぐに修正することが、授業でのICT活用の秘訣と言えるだろう。