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2010年9月2日

ジョブズが繰り返した言葉が示す「アップルの目の付け所」

瀧口 範子=ジャーナリスト

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(執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 9月1日(米国時間)に開かれたアップルのイベントで、新しいApple TVが発表された。この発表を見ていて、映画はこれからダウンロードするものではなく、ストリーミングが主流になるのかもしれないなあ、と思った。

 Apple TVは、いわゆるセットトップ・ボックスである。これまでは、iTunes Storeに直接アクセスして映画をダウンロードしたり、パソコンにダウンロードされたコンテンツをテレビ画面に転送したりするための装置だった。

 もちろんインターネットからのストリーミングもできたが、今回の発表によると、新しいApple TVはストリーミングするだけになる。つまり、iTunes Storeから映画やテレビ番組を買ってダウンロードするのではなく、レンタルするだけ。そのため、ファイルを保存したり、コンピューター経由でiTunes Store からダウンロードしたコンテンツをシンクロしたりする必要がなくなるというわけだ。

 この発表をした際に、ジョブズが使った言葉が面白かった。

 「コンピューター業界の人間はどうしても分からないようだが、普通の人々は映画やテレビ番組は、コンピューター画面なんかで見たくないと思っている」

 「普通の人々は、保存したファイルを管理したり、シンクロ作業したりすることなんかやりたくないと思っている」

 この「普通の人々」という表現がたびたび登場するのを、私は興味深く聞いていた。つまり、これはアップルのリビングルーム進出宣言でもあるのだ。それもややこしい機器の接続やらシンクロなどなしに、それひとつですぐに映画やテレビ番組が見られるようにするということなのだ。

 アメリカでは、リビングルームで大きな画面でテレビを見るというのが、家庭団らんにとってとても大切なこととされているところがある。自分の家を持つ際に、メディアルームがあったりするのは理想的だし、日本以上にテレビ周辺の装置などをいろいろ試してみる傾向がある。

 だが、そういう人々の大半は決してコンピューターマニアではないのだ。インターネットはコンピューター側から起こったので、今までコンピューターの画面で映画を見たりしてきたのだが、アップルはそれ以外の無数の人々に目を向け始めたのだろう。後発組でiPhoneを使い始めたママのいる家や、朝から晩までテレビの前に座って過ごす人々。おしゃれなアップルユーザーではなく、そんな「大衆」の存在を意識し始めたのではないかと思う。

 そのため、インターネットなど見えないようにして、けれどもインターネットを経由させてテレビを見ることを簡単にする。Apple TVは、買って2、3本のケーブル(電源コードとテレビへのコネクター。Wi-Fi環境でない場合はイーサネット)をつなぎ、ボタンをいくつか押すだけで、すぐにインターネットから映画やテレビ番組がストリーミングされるのだ。

 UI(ユーザーインタフェース)も実に分かりやすく、Webブラウザーの格好などしていない。ちょうどアプリが並んでいるような感じで、絵が出てくるだけ。リモコンでそれをクリックすればいいのである。

 Apple TVは手のひらに載るサイズになったが、値段も何と229ドルから99ドルまで値下げされた。コンテンツも、テレビ番組がこれまで2.99ドルだったものが99セントに。新作映画は、DVD化されたその日に4.99ドルで見られる。これはかなり魅力的な価格設定だろう。

 ストリーミングと言えば、最近は私のまわりでもレンタル映画をストリーミングする人が増えた。アメリカにはNetflix(ネットフリックス)というレンタル映画会社があって、インターネットで選び、郵送でDVDが到着し、見た後は同封の返送封筒で送り返すという簡単さが人気を呼んでいた。

 ところが同社がストリーミングを開始すると、すぐに大勢の人々がそちらを選ぶようになった。Apple TVはこのNetflixとも提携して、テレビ画面から直接Netflixのコンテンツをストリーミングできるようにしている。

 考えてみれば、よほどのファンやコレクターでもない限り、コンテンツをダウンロードして所有する必要はない。ほかにも見たいコンテンツがいくらでもあるし、値段が下がっているからもう一度見たいならば、再度ストリーミングすればいいだけだ。ファイル管理のような面倒くさいことも自分でやらず、アクセスして探す方がずっと簡単である。

 普通の人々のストリーミング。ひょっとするとアップルは、けっこういいところに目を付けたのである。


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