4月からアキバのPC売場に立つようになったB君は、身長176センチ、体重78キロの丈夫な体躯を持つ有名私立大卒。旧知店員と飲んでいるところに、彼はやってきた。「失礼します」「あっ、彼ね、島川さんのファンなんだって。一度会いたいっていうから誘っておいたんだ」。長い連載生活の結果、たまに、こんな奇特なヒトとお会いするときがある。挨拶もそこそこに、「へえ、またどうしてアキバで働くことにしたの?」とジャブを放てば、「リーマンショック後の就職氷河期にモロにぶつかりました」と説明してくれた。「同期のなかには、居酒屋チェーンに就職したヒトもいますし、まだ自宅警備員を続けているヒトもいます」だそうである。
「どう、もう慣れた? 最初は足が痛くなったでしょ」と電気街の新人に話せば、「まだ、慣れないですね。一日中立ち続けるなんて、学生時代には考えられませんから」とフトモモあたりを指差した。旧知店員が、「じっとしてないで売場を歩けとか、清掃するふりをして休めとか教えてるんだけど、マジメな性格だから、どうもソレができないようなんだ」と横槍を入れてきた。「まあ、まだ入社して3カ月だもんね。そのうち慣れるよ」と小生。「自分も同じものをオーダーして良いでしょうか?」と新人店員は、小生が飲んでいるモノを見た。テーブルの上には、飲みかけのホッピーセットがあった。
「で、どう? アキバの現場OJTは?」とジロリ。「採用が決まったとき、On-the-Job Trainingをすると採用担当者が話されたので安心していましたが、いきなり売場に立たされると思っていませんでした」と彼。「あっ、それがアキバの標準的なOJTだよ。接客商売は実地訓練して、成功や失敗を繰り返させて、自分で自分のスキルを向上させるんだから」と小生。家電メーカーなどは、研修マニュアルに準じた期間を用意して、専門家の講義を受けさせるだろうが、家電量販店の多くは、売場状況や接客販売方法などの説明をしたら、現場に放り出す。担当売場の先輩の仕事を見て、在庫管理から伝票記入などのノウハウを吸収せよという具合だ。
「島川さんのときも、同じでしたか?」と整った顔立ちの彼は、小生の目を見ながら質問してきた。「はい、一緒です。カタログを自宅に持ち帰って商品知識を高めたりしてました」と即答した。パソコンという言葉よりもマイコンという言葉が優勢にあった時代、マニュアルと首っ引きで新製品を触り、プライスカードまで、店員が手書きで作成していた。当時、プライスカードは、総務に所属するPOP担当者に依頼することが基本だったが、PCだけは商品名と実売価格を記入するというわけにはいかなかった。特長を把握する店員が、自身でそれを作成するのは自然の成り行きだった。何枚、作ったろう。
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