先週、ロンドンの音楽祭「BBC Proms」のネット中継をご紹介したが、続いてバイロイト音楽祭も開幕している。こちらの公演もインターネット経由で楽しむことができる。
バイロイト音楽祭は、ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーのオペラのみを上演する音楽祭である。かつてワーグナーは自身のオペラを上演するための理想の劇場を求め、ルートヴィヒ2世の援助により自ら劇場を建築する。1876年に第1回が開かれたこの音楽祭は、その後、二度の世界大戦などにおける中断をはさみながらも、現代に至るまで継続し、毎夏世界中のワグネリアン(ワーグナーの熱狂的なファン)たちの注目を集めている。現在の音楽監督はリヒャルト・ワーグナーの孫にあたるヴォルフガング・ワーグナー(1919- )。
そんな歴史と伝統のあるバイロイト音楽祭にも、ITによる変革の波は訪れている。新聞各紙などでも事前に報道されていたように、今年からバイロイト音楽祭は公演の一つを自らのサイトで有料生中継するようになった。
……と耳にして、「あれれ?」と首を傾げたのは私だけではなかったはずだ。バイロイト音楽祭の各公演は、もう何年も前から欧州各局のネットラジオを通じて生中継されている。今年もドイツのBayern4やハンガリーのBartok Radio、スペインのRadio Clasica de Espana他が現在放送中。音質も十分高い。生中継となると日本では深夜から明け方になってしまうという時差が難点ではあるが、例年年末に放送されるNHK-FMの中継を待たずとも、ライヴで楽しめるというのは大変ありがたい。
で、確認してみたのだが、バイロイト音楽祭公式サイトが有料で提供してくれるのは、映像付きの生中継ということのようである。演目は前述のヴォルフガング・ワーグナーの娘、カタリーナ・ワーグナー演出による「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。料金は強気の設定で49ユーロ(約8300円)だ。
いや、これは「強気」なんてものじゃない。この料金で視聴できるのは、7月24日に行われた「マイスタージンガー」一公演のみ。8月2日まではオン・デマンドでも見ることができるが、それっきりの楽しみだ。
映像はDRM付きで、購入前のチェック用サンプル動画を確認したところ、画面解像度は512x288、音声は64kbps。本配信でクォリティを上げたりはしないだろうから(だったらサンプルの意味がない)、さすがにこれに49ユーロを支払おうという気にはなれない。この画面サイズで1回だけの中継に、DVD並みの価格を付けてくるとは。恐るべし、バイロイト音楽祭。
ちなみに無料のネットラジオなら128kbps以上の高音質で7演目すべてを聴くことができる。今年の演目は「パルジファル」「トリスタンとイゾルデ」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」、そして「ニーベルングの指環」四部作すなわち「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」というラインナップ。
ネットラジオでの生中継は残すところ「ジークフリート」(31日)「神々の黄昏」(8月2日)の2公演のみだが、慌てる必要はない。例年、欧州各局で再放送をしてくれるので、これからでもすべての演目を聴くことができる。詳しい放送予定については、operacast.comが参考になるだろう(再放送予定についてはこれから随時更新されるはず)。日本時間はGMT表示の時刻に9時間をプラスすればOKだ。最新の公演がこんなふうにネット経由で聴けてしまうとは、なんとありがたい時代が来たことか。
【飯尾洋一(いいお よういち)】
音楽評論家。1965年金沢市生まれ。著書に「クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!」(三笠書房・王様文庫)。名古屋大学理学部物理学科卒業後、音楽之友社にて月刊誌「レコード芸術」「音楽の友」および書籍などの編集に携わる。現在は、クラシック音楽についての執筆などで活躍。1995年よりクラシック音楽ファンのためのWebサイト「CLASSICA」を個人で運営
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