スティーブ・ジョブズに近しいある知人から、こんな話を聞いて笑ってしまった。何でも二人の間で超薄型ノートパソコン『MacBook Air』について、こういう内容の会話を交わしたとのこと。
彼: 「スティーブ、いくらなんでもイーサーネット・ポートをなくしてしまったのはマズイよ。みんなが君のように、ワイヤレス完備のいいホテルに泊まれるわけじゃないんだから」
ジョブズ: 「そんなこと問題じゃないよ。そんなに心配なら、Airport Expressを持っていけばいいじゃないか」
空腹にあえぐ人々を見て、「パンがないのなら、ケーキを食べたらどうなの」と言ったのはマリー・アントワネットだが、何だかジョブズの発言も遠からず。出張先でMacBook Airを使うためには、Airport Express(国内での製品名はAirMac Express)を買えというのだ。それだけではない。ホテルの部屋に到着してスーツケースを下ろすやいなや、配線工よろしく床にはいつくばってベースのAirportをセットし、MacBook Air様のためにワイヤレス環境を整えよ、とは……。
MacBook Airは、事務用封筒に入るほどの薄さが売りだが、家と同じように出先でも安心して使おうとすると、封筒どころか、ゴチャゴチャといろいろな周辺機器を持ち歩かなくてはならないということでもある。
マック派の私は、MacBook Airを見て以来、買うべきか、買わざるべきかと、毎日振り子のように心が揺らいでいる。現在使っているのはPowerBook G4 だが、出張に出る際には本当に重い。重いだけではなくて、大きくてかさばる。MacBook Airを目にしてからというもの、このG4が畳のようにすら見えるほどだ。だからやっぱりAirが欲しい。
だが冷静に考えれば、「本当のところは、封筒1枚というわけにはいかないでしょう」ということも分かっている。そこでちゃんと計算してみることにした。出張が多い上に、マシーンにさほど強くない身としては、頼りになるコンピューターでないと困るのだ。
まずそのAirPort Expressをご購入。お値段は安い方で99ドル。重さ250グラムほどだろうか。もちろんUSBからイーサーネットにつなぐ方法もあるのだが、この際、ジョブズの言う通りにしてみよう。
次にUSBハブ。MacBook AirにはUSBポートが1つしかないので、ちょっと不安。4つのポート付きのベルキン社の高速のものを買ったとして、約50ドル。本体は軽いが、大きな電源アダプターがついている。合わせて400グラム。うん? USBポートに差し込んで、コンピュータを電源にするもっと小さいものもある。これなら30ドルで、100グラムほどか。ただ、電源がないところで使った時にコンピュータの電気を喰ってしまうのは不安。
光学ドライブが必要な時もあろう。MacBook Airには光学ドライブはないのだ。出張先で映画を見たくなるかもしれないし、ディスクにデータを記憶しなければならないかもしれない。何と、MacBook Air SuperDriveなる新製品がもう出ている。99ドル。これは電源アダプターなしでOKという優れもの。320グラム。
もう一つ。念のための通信カード用アダプター。MacBook Airにはカード・スロットがないからだ。日本で使うので、アイ・オー・データ社製の9400円。重さは300グラム程度。
と、これくらいで十分か。これらを全部買ったとして税金込みで370ドル(4万円弱)。これがMacBook Airのお値段1799ドルに追加され、合計2100ドル。何よりもこれら重量の合計が1.3キロほどで、マックブック・エアの1.36キロに足すと2.66キロ。PowerBook G4が2.5キロほどなので、がっかりしたことに、それより重いではないか。もちろん、USBハブを小さい方にすれば、これより300グラムは軽くなるが、それでもG4より140グラム軽いだけだ。いずれにせよ、このゴチャゴチャした周辺機器を封筒に入れると、軽く2つ分になる。いやはや、スマートにはいかないものだ。
上記は完全装備の安心シナリオであることは確かだが、ふ〜ん、次のラップトップも開発中だという噂だし、やっぱりはやる気持ちを抑えて、もう少し待ってみようと思った次第である。
【瀧口範子(たきぐちのりこ)】
フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、建築・デザイン、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著/Bringing Design to Software)』(ピアソンエデュケーション刊)、『ピーター・ライス自伝』(鹿島出版会・共訳))がある。上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。1996-98 年にフルブライト奨学生として(ジャーナリスト・プログラム)、スタンフォード大学工学部コンピュータ・サイエンス学科にて客員研究員。
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