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2007年8月16日

私が好きなパロアルト流「リサイクル道」

瀧口範子=ジャーナリスト

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(執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 今回は、趣向を変えてゴミの話を。

 1年半ほど前のことだったか、シリコンバレーの中心地パロアルト市の市民に、大きなプラスティック製のゴミ箱が配られた。

 「大きい」と書いたが、アメリカの基準から見てもこのサイズは大きい。正確には測っていないが、日本の超大ゴミ袋がゆうに3つは入るかと思われるサイズ。大人ふたりが入ってかがめば、ちゃんとふたが閉まるほどの超巨大さである。

 そのゴミ箱は何と、リサイクル・ゴミ用のものだった。ゴミ収集の方法は市によって規定が異なるのだが、それまでパロアルト市ではリサイクル・ゴミを「ガラスびん・カン」「プラスティック」「新聞・雑誌」と分別するようになっていた。それぞれに色分けされたプラスティック製のカゴが各戸に配られていて、ゴミ収集日にはそれをドライブウェイに出していたのだ。

 ところが、この超巨大ゴミ箱には、「これからは分別の必要なし。すべてのリサイクル用ゴミをこの中へ入れること」という説明書がついている。すべて一緒くたにしろ、と言うである。

 資源を大切にするリサイクルの精神とは、市民一人ひとりが誠心誠意努力し、ゴミをていねいに分別することによって成り立っていたのではなかったか。それを本当に一緒くたにしていい?

 「そんなバカな……」

 疑心暗鬼のまま、次のゴミ収集日に外へ出てみると、どの家もこれまでのカゴに替わり、この緑色の超巨大ゴミ箱を外に出している。時間になるとトラックが回ってきて、ちゃんと中味を荷台に空けて去って行くではないか。こんないい加減なことが許されるとは、何とも意外。これでは正しい市民生活の後退ではないか、などといつになく理屈をこねた後、私はパロアルト市役所に電話をしてみた。

 「あのー、リサイクル・ゴミをあんな風に収集するのでいいんですか?」

 係員の答に、私は思わずひざを打った。

 彼女によると、リサイクル・ゴミの回収率は分別を簡素化すればするほど高まるのだという。その統計がちゃんとあるそうで、それに基づき、市ではかねてよりどう簡素化するかを検討してきた結果、リサイクル・ゴミをかなり高い確率で自動分別する先端的な機械を導入し、一部手作業も組み合わせて、このたびのような「一緒くた」ポリシーでも大丈夫と踏んだとのこと。市民に努力を強いる代わりに、機械で効率化を図ってしまおうという、いかにもアメリカ合理主義的なやり方に出たわけだ。

 何でも、スタンフォード大学のおひざ元であるパロアルト市では市民意識が高く、すでにリサイクル・ゴミの回収率は高かったらしい。だが、他の町ではそうでもない。広域的に回収率を向上させるために、この方法が最もよいというのである。

 私は日本へもちょくちょく帰るが、日本の地方行政によっては頭が痛くなるようなゴミの分別規制を設けているところもある。ガラスびんは色ごとに分けるとか、牛乳パックは開いて乾燥させた後、平らにして出すとか。リサイクルをやるのはほとんど「道」とでも呼ぶべき、厳しくストイックな行いであると感じるほどだ。その上、ご近所の力学も働いて、分別をごまかすと沈黙の非難を浴びることもある。

 それに引き換え、パロアルトの「一緒くた」方式の開放感はすごい。何でもかんでも、この超巨大ゴミ箱にボンボンと放り込めばいい。そのすばらしい清涼感。それにいくら入れてもいっぱいにならないので、他に捨てるゴミはないものかと家の中を探し回たりするほどだ。少なくとも我が家ではリサイクル・ゴミを出す割合は急上昇したし、地域としての回収率もこれなら高まろうと想像できる。

 日本の技術力をもってすれば、同様の自動分別機械を造るのも可能のはずだが、そのあたりは心理の違いだろう。パロアルトの方法が効果と結果重視の実践主義的アプローチだとすれば、日本は正しいふるまいを重んじる精神主義的アプローチ。議論はあるだろうが、私はパロアルトの楽チン方式が大変好きになってしまったのである。

著者プロフィール

【瀧口範子(たきぐちのりこ)】
フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、建築・デザイン、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著/Bringing Design to Software)』(ピアソンエデュケーション刊)、『ピーター・ライス自伝』(鹿島出版会・共訳))がある。上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。1996-98 年にフルブライト奨学生として(ジャーナリスト・プログラム)、スタンフォード大学工学部コンピュータ・サイエンス学科にて客員研究員。


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