しばらく前に、EMIレーベルがiTunes Storeで販売する全楽曲を「DRMなし」にするというニュースが流れた。5月16日には、米アマゾン・ドット・コムが、DRMなしの音楽配信サービスを年内に始めると発表した。DRM(digital rights management)なし、つまりコピー防止ソフトが組み込まれない楽曲ファイルを購入できる、と。
ワタシは膝を打った。
「おおっ、これはスゴい。画期的だ!」
が、落ち着いて考えてみると、自分はDRMのことなんて、なにも分かっていないことに気づいた。
音楽をどんな形で購入するか。いまだにその大半はCD。でも最近はときどきネット経由で音源を買ったりもする。これらの音源ファイルにはDRMが組み込まれているであろうことはなんとなく承知していたのだけど、じゃあどの音源がどんなふうに制限されているか、ぜんぜん知らずに購入していたのだ。
これはマズかったかも。
なにが気になるかといえば、自分が購入した音源を今後ずっと聴きつづけることができるのかどうか。クラシック音楽のコンテンツとしての寿命は長い。自分の気に入った演奏となれば、10年でも20年でも聴く。CDを買うときは「1回しか聴かないかもしれないけど、良ければ一生聴けるだろう」と思っている。
まずiTunes Storeへ行ってヘルプを熟読。「iTunes Music Store から購入した音楽は、iTunesで認証することにより、最大5台までのコンピュータで再生することができます」と書かれている。あ、この認証はデスクトップで購入した音源をノートパソコンに移したときに経験した気がする。じゃあ、このそろそろ買い替え時期が近づいているデスクトップで購入した音源も、認証さえすれば次のマシンで聴けるってことか。でもコンピューターの寿命は短いんだから5台じゃいずれ足りなくなるのでは、と一瞬不安を感じるが、認証できるコンピューター数が5台に達すると、「すべての認証を解除する」機能で、認証されたコンピューター数をリセットすることができるらしい。
この親切設計ですらなんだか煩雑でわかりにくな……と感じてしまうワタシはかなり甘い。
引き続き、いくつかWMAの音源を配信するサイト(たくさんある)を調べてみると、その方式はまちまち。ライセンスをバックアップしておけば、パソコンを買い換えても大丈夫だよ、と言ってくれるところもあれば、潔く「ご購入いただいた楽曲は購入手続きを行ったパソコンでのみ再生可能です」と言い切ってくれるサイトもある(MSNミュージックやMySound、e-onkyo musicなど。多くの楽曲はCDへの書き込みは可能)。そんな仕様なら、数年しか寿命がないパソコンで、一生聴き続ける(かもしれない)カラヤンやマリア・カラスの名録音を買うのはためらわれる。
そういえば、音源を販売していたサイトがサービスを終了したケースがあるんだけど、この場合はどうなるんだっけ。ハードディスクの中には、いくつかの音楽配信サイトから購入した音源もあれば、CDからコピーした音源もある、合法に無料配布された音源もある。これらを今後パソコンを買い換えたときに、どう扱えばいいのかってのは、ずいぶん憂鬱な話だ、そもそもリスナーが音源の管理に悩まされるってのは、ビジネスの仕組みとしてどうなんだろうか。
ようやくワタシは「DRMなし」の意義を実感した、たぶん。でもそれ以上に思うのは「音楽CDって、なんてオープンですばらしいフォーマットなんだろう」ってこと。一回買えば、いつでもいつまでも聴ける。買った後になんの手間も要らない。音楽CD最強。
ああ、ぜんぜんネットエイジな結論に至っていないぞ。
でもクラシックの音楽配信にはもっと大きなテーマが控えているのだ。それはまた次回に。
【飯尾洋一(いいお よういち)】
音楽評論家。1965年金沢市生まれ。著書に「クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!」(三笠書房・王様文庫)。名古屋大学理学部物理学科卒業後、音楽之友社にて月刊誌「レコード芸術」「音楽の友」および書籍などの編集に携わる。現在は、クラシック音楽についての執筆などで活躍。1995年よりクラシック音楽ファンのためのWebサイト「CLASSICA」を個人で運営
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