ISSEP参加レポートの続きです。今回は会場で聞いた各国の発表を紹介します。
「第2回 中等教育における情報教育に関する国際会議(ISSEP2006)」は、リトアニアの首都であるビリニュスで、11月7日から11日の5日間行われました。初日は運営会議などがあり、発表が行われたのは11月8日から11日の4日間です。
全体会議がおこなれた議員会館の大会議場では、著名な研究者による基調講演とチュートリアルが行われました。各国の研究者が一堂に会して議論する様子は興味深いものがありました。

全体会議が行われた大会議場
分科会での発表は、4箇所のセッション会場に分かれて行われました。会場は議員会館の会議室です。どの部屋も威厳のある落ち着きが感じられ、とてもよい雰囲気で議論を進めることができました。

分科会が行われた議員会議室
分科会は次のようなテーマに分けられていて、聴衆は興味のあるセッションを選んで参加します。高校までの情報教育について、さまざまな側面から議論されていることがわかります。
日本からは、静岡大学の紅林秀治先生が「プログラミング教育」のセッションで、私が「各国の状況」セッションで発表しました。これらの内容については、来週以降にご紹介したいと思います。
英語による通常のセッションに加え、現地語であるリトアニア語のセッションや、英語からリトアニア語への通訳付きのセッションも行われていました。研究者の議論にとどまらず、現場の先生方をきちんとサポートしていくための試みとして評価したいと思います。
そのほか、インターネットを使ったフィンランドとのビデオ会議が行われたり、壁新聞のように説明書きを掲示して議論するポスター発表が行われていました。先週ご紹介したように教科書展示も行われ、日本からは中学校の技術の教科書と高校の情報の教科書を展示してもらいました。

世界中のコンピュータ教科書の展示
リトアニアの高校生は最大140時間かけて情報教育を受ける
リトアニアの情報教育の歴史は、今回の国際会議の主催者である情報数理大学のValentina Dagiene教授から報告されました。
リトアニアは、1990年に独立を果たすまで長くソ連に併合されていました。そのため、1980年代後半に始められた情報教育では、ソ連で作られたロシア語の教科書を翻訳して教えることしか許されず、独自の工夫を行うことが難しい状況が続いたそうです。
そのような制約の中で、たとえばプログラミング言語に関しては、ソ連の教科書で使われてたBASICとRapyraという言語のプログラム例を、より教育に適したPascalという言語に置き換えて翻訳するための交渉をねばり強く行ってきた経緯があり、そのような苦労が現在進められている情報教育の基礎となっているということでした。
現在、リトアニアの高校では70時間の必修授業と70時間の選択授業の中で「コンピュータの原理」「情報の基本操作」「文書処理」「アルゴリズムの基礎」という4つの柱で情報教育が行われています。プログラミングにも力を入れていて、PascalとLogoという教育用の言語を採用しています。小学校では、5年生からコンピュータを使った文書作成を行うそうです。
私はリトアニアという国には縁がなかったのですが、昨年ポーランドのワルシャワで行われた国際会議でValentina Dagieneさんや同僚のViktoras Dagysさんたちと食事をご一緒する機会があり、そのときに初めていろいろな話をうかがいました。
リトアニアでは、第二次世界大戦中に通過査証の発行で数千人のユダヤ人をナチスの迫害から救ったとされる杉原千畝外交官が有名です。ビリニュスにも「スギハラ通り」という通りがあり、その名前が残されていました。
女子学生対象のプログラミングコンテストも
どのセッションでも、それぞれの発表には国ごとの状況が感じられて興味深いものがありました。いくつかを紹介します。
ニュージーランドからは、女子学生プログラミングコンテストの報告がありました。女性の社会進出は世界的に高まっていますが、 IT分野に関しては遅れているという現実があります。そのため、 1998年から、中学生と高校生を対象にしたコンテストを通して普及活動を行っているそうです。
ドイツとオーストリアからは、アルゴリズム(コンピュータが問題を解くための手順)の教育が報告されました。情報教育については世界的に先端志向が強くなっている印象があります。日本では大学の専門課程で学習している内容の一部が、海外では一般の中学校や高校で扱われていることがあるようです。特に、オーストリアの中学校で迷路探索のアルゴリズムを教えている授業は印象的でした。個人的には、小中学校では、アルゴリズムを学ぶよりは、プログラミングの楽しさを体験してほしいと考えていますが。

オーストリアの13歳の女の子が作った迷路探索プログラム
スリランカからは、国の財政が厳しい中で情報教育を進めているという報告がありました。現在、中国やインドは豊富な人材を背景に、各国からITの開発や運営を請け負うオフショアに力を入れています。スリランカなど他の国も、システムの開発や運営を請け負えるだけの高度な人材育成を重視しているようです。
安価な教育用のPCに関しては、会場からMIT(米国マサチューセッツ工科大学)が進めているOLPCプロジェクトが役に立つのではないかというアドバイスがありました。OLPCはOne Laptop per Child (世界の子供たちに1台ずつのPCを)というコンセプトで進められているプロジェクトです。価格を$100(1万円台)に設定し、電源がなくても手回しの発電で動作するノートパソコンを開発しています。

$100PCのイメージ
今回は、ISSEP2006の各国の発表をご紹介しました。次回は、日本から行った発表をご紹介したいと思います。どうぞお楽しみに。
【兼宗 進(かねむね すすむ)】
1963年東京生まれ。87年千葉大学工学部電子工学科卒業、89年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了、工学修士。15年間の企業勤務ののち、2004年筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士課程修了、博士(システムズ・マネジメント) 。2004年より一橋大学総合情報処理センター助教授。主な研究対象分野はコンピューター教育。自ら教育用プログラミング言語「ドリトル」の開発も手がける。詳しくは兼宗研究室のサイトを参照のこと。
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