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グーグルを支える女帝、マリッサ・メイヤー

2006年11月16日

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グーグルの顔として最近よく見かけるマリッサ・メイヤーには、以前から関心を持っていた。彼女のプロフィールを挙げると以下のようになる:

* 肩書きは、検索製品とユーザー・エクスペリエンス担当副社長
* 入社番号20番
* グーグルに入社した最初の女性エンジニア
* スタンフォード大学コンピュータ・サイエンス学部卒業。専門は人工知能
* 創設者のひとり、ラリー・ページのモト彼女
* 新製品がエリック・シュミットCEOや共同創設者の2人にプレゼンされる前の最後の関門
* 高校時代はディベートクラブに所属し、チアリーダーも務めた
* 底抜けに明るい隣のお姉さん風
* 最近はファッションがおしゃれになった

つまり彼女の職務は、インターネット・エンジニアリング会社のグーグルが世に発表する製品の全責任を持ち、しかもその内容は製品の機能からユーザー・インターフェイスといった細かなディテールに及ぶということである。その上、彼女は母校のスタンフォードにしばしば顔を出して新入社員のスカウトに走り回り、どのエンジニアも彼女の面接を受けて最終的に採用が決まる。すなわち、エンジニア人事担当者でもある。

雑誌などで伝えられる彼女の俗称はグーグルの「製品帝王」、日本風に言えばグーグルの「女王様」といったところか。だが、彼女の仕事には社内のエンジニアを結びつけてチームづくりをしたり、複数の技術からひとつの新製品を生み出すために開発の組み替えをしたりすることも含まれ、このあたりはグーグルの「電話交換手」といった趣もある。要は、彼女の職能は非常に多岐にわたっていて、うまく定義できないのである。

あれこれを並べてみると、彼女がやっているのは「検索製品とユーザー・エクスペリエンス担当副社長」という肩書きから通常想像する範囲をとうてい超えたもので、おそらくはグーグルが創設以来直面してきた必要性にその都度対応してきた結果このような状態になったのだろうと思わせる。硬化してしまった普通の大企業には見られない伸縮自在な職能。グーグルのアウトプット自体がマイヤーの能力にかなり依っているのではないかと思わせるところがあるのだ。

ところでそのアウトプットだが、マイヤーはグーグルの内部から最大の産物を引き出すために、仕事のプロセスにおいてあれこれと工夫を試みていることはさらに興味深い。たとえば、「グーグルが考える9つのイノベーション」というコンセプトがあるが、ここには膝をたたかせるポイントがいくつもある。いくつか挙げてみよう:

* 経験よりも知性を重視せよ
* 完璧を極めるのではなく、イノベーションを続けよ
* 社内政治ではなく、データを使え
* クリエイティビティーは束縛されるのが好き
* ダメになりそうなプロジェクトは殺してはいけない。変形させよ

彼女の時間に対するアプローチもおもしろい。たとえばエンジニアやプロダクト・マネージャーが行う新製品のプレゼンテーションは10分内に収めなくてはならない。ミーティング・ルームの前面にはふたつの大スクリーンがあり、片方にはプレゼンテーションのパワーポイントが、もう片側には書記係がミーティングをリアルタイムで記録するテキストが映し出される。そしてその間には10分をカウントダウンするタイマー。タイマーが刻々と残り時間を告げる間に、マネージャーたちは要領よく内容を伝えなくてはならないわけだ。この方法は通常のミーティングでも行われているという。

さらに「マイクロ・ミーティング」もある。これは、急を要するミーティングに用いられる手法。多忙なメイヤーがスケジュールの中から絞り出せる時間はたった5分間である場合もあるが、「先延ばしにした30分のミーティングよりも、今の5分の方が製品開発のレイタンシー(冗長性)を防ぐことができるでしょう?」というのが、彼女の言い分である。仕事のリズムを保ち、開発を加速化する方法だ。「いや〜、昨夜は飲み過ぎちゃって……」などと言っていると 10数秒が無駄になるので、マイクロ・ミーティングではいきなり用件にダイブしなくてはならない。

こういった社内のプロセスや工夫のあれこれを、マイヤーはどんどん公表する。スタンフォード大学の学生相手に「9つのイノベーション」を語っているところに居合わせたことがあるが、共鳴発生装置のような彼女のスピーチは、「わが社へ来てください」とうるさく訴えるよりはよほど効果的だろうと思わせた。それに次から次へと工夫を発案している様が、まさにエンジニアリング会社らしくはないだろうか。まるで、グーグルという優れたOSの上に、あれこれのアプリケーションを走らせて試しているようなもの。アプリケーションがうまく機能すれば、いいアイデアと製品が生まれてくる。仕事への取り組みに大げさな悲壮感や妙な精神論がないあたり、とても「サイエンティフィック」だと感じさせる次第である。



(瀧口範子=ジャーナリスト)
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

日経パソコン 2010年1月25日号

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