先進的な研究を支える取り組みにはさまざまな試行錯誤が繰り返されています。今回、座談会に参加された原田氏も補助を受けてソフトウエアの研究に没頭した時期があったそうです。研究成果もさることながら、人との出会いが大きな刺激だったと振り返ります。(編集部)
原田:未踏ソフトではないのですが、私も30代半ばごろ、科学技術振興事業団(現在の科学技術振興機構。研究開発と技術移転を推進する文部科学省の外郭団体)の補助金を受けてソフトウェアの研究をしたことがあります。そのときの経験は未踏ソフトのPMを担当したときに役立ちましたね。
並木::「さきがけ研究21」ですか。
原田:そう。3年間、研究者個人に対して研究費が助成されるというプログラムです。私は1998年に選ばれました。さきがけがコンピューターサイエンスを対象にするのは初めてということで、いろいろな人が参加していて楽しかったですよ。プログラマーだけでなく、たとえば医学部の研究者などもいました。いろいろつながりができて、そのときの研究仲間とは今でもつきあいがあるんです。
兼宗:未踏ソフトのように、PMがついてくれるんですか。
原田:現在は慶應義塾大学の塾長になられた安西祐一郎さんをはじめ、何人かの先生方がアドバイザーになってくれていました。でも、あえて細かな助言はしてくれないんです。そのかわり、年に2回合宿をして、研究者がそれぞれの成果を発表する機会が設けられていました。そこで互いに競争心が芽生えて、自然にがんばるんですよ。
兼宗:年に2回だけでも、刺激になりそうですね。
原田:結構きついんですよ(笑)。3年間だから合計6回発表があるわけですが、他の研究者も聞いているから、何かしら「うける」話を毎回しなくてはいけないというプレッシャーがあるんです。それに、期間が長いので、いい時期もあれば悪い時期もある。僕もかなりまずかった時期があって、発表するのがつらかったですね。結局のところ失敗に終わってしまったんですけど。
兼宗:失敗ですか。最終的に?
原田:ええ、最終的に。理由は自分でもわかっていて、無謀なことに挑戦してしまったからなんです。さきがけに選ばれたということで、最初の頃はちょっと浮かれてしまっていたし、他の研究者のことを意識したりもするから、問題設定をどんどん難しくしていってしまったんです。
兼宗:3年という期間は長いので、相当大きな構想だったんでしょうね。
原田:なにしろ「万能のプログラミング言語」だったので。これは無理でしょう(笑)。少なくても、あと10年は必要だった。ただ、私の場合は失敗に終わってしまったけれど、いろいろな参加者がいて、刺激し合い、助け合いもするから、互いに得るものは大きかったと思います。未踏ソフトでは「さきがけ研究21と同じような雰囲気でやりたい」と考えて進めました。
兼宗:PMの下に集まる未踏ソフトの参加者の中には、原田さんが感じられた雰囲気のよさというのはあるんですか。横の連携が生まれるという意味で。
原田:それを一番重視しています。僕は細かいことはいちいちいわないようにしているんです。失敗しそうなときにだけ気づかせてあげて、あとは何もいわない。
並木::ほかのPMも、メーリングリストを作るなどして、自分の担当している参加者同士の対話を活性化させようと努力しています。そこで得られるすばらしい人脈こそ、本当に貴重なんですよね。
兼宗:なにか、同じ門下生みたいな気分でいいですね。話は戻りますが、原田さんの「万能プログラミング言語」は失敗でも意味があったと思います。本当に先進的なものだったら、10に1つの成功でも、確率としては高い方でしょう。
原田:失敗した本人はつらいんだけどね(笑)。
並木::しかし、本当にそれでいいんですよ。僕には、今のアジアは下請けでカツカツのように見えるんです。西はインドから東は中国まで、他人が書いた仕様書を読んで、それに従ってソフトを作るというだけになってしまっている。大事なのは、自ら仕様を決めたり、新しいアイデアを生み出す方でしょう。
日本はたぶん他人が決めた仕様に従ってソフトを作っていて、これではダメだと気づいたのがだいたい20年ぐらい前。典型的な例が汎用大型機でしょう。他人が決めたアーキテクチャやOSの仕様をひたすら真似て作っていました。その後は打つべき手を探し続けている気がします。
魅力のあるアイデアにリスクを許容してお金を出せるか。10に1つの成功で笑って許してあげられる寛容さを持てるか。そこが、アジア、ひいては世界の中で日本がクリエイティビティーの面で突出できるかどうかのポイントでしょうね。
ゲスト: 並木美太郎氏(東京農工大学 大学院共生科学技術研究院 助教授) 企業を経て大学教員ながら、今もプログラムを作り、未踏PM等で新しいソフトウェアを創造できる人材の発掘と育成にたずさわっている。
原田康徳氏(NTTコミュニケーション科学基礎研究所主任研究員) 子ども向けプログラミング言語「ビスケット」とその応用「うごうごブログ」、未来の電話を研究。現在は美大生でもある。
(次回に続く、構成:曽根武仁=百年堂)
【兼宗 進(かねむね すすむ)】
1963年東京生まれ。87年千葉大学工学部電子工学科卒業、89年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了、工学修士。15年間の企業勤務ののち、2004年筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士課程修了、博士(システムズ・マネジメント) 。2004年より一橋大学総合情報処理センター助教授。主な研究対象分野はコンピューター教育。自ら教育用プログラミング言語「ドリトル」の開発も手がける。詳しくは兼宗研究室のサイトを参照のこと。
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