適切な目標を持つことは、その人の能力をうまく引き出すことにつながります。それは主体が組織となっても変わりません。いえ、むしろ、複数の人間が関わるときこそ、各人が納得できる共通の目標が必要となるでしょう。組織を構成する個々人の力が、同じ方向を向いて初めて組織として動き出すことになるのですから。
前回、ご紹介した長野県小諸市の選挙集計の改革は、集計時間の短縮という共通目標を掲げることで、集計作業に参加する人々(その大半は市の職員でしたが)の目指すべき方向をそろえることができました。
「集計時間が短くなる」という具体的な目標があったことで、各人が自分の担当する業務に対して「カイゼン」を行うモチベーションを生み出すことができたわけです。
実は、この自発的な行動を促すためのしかけを作ることが、大きな組織を動かすための要であると同時に、難しい点なのかもしれません。
たとえば、選挙集計時間の短縮というのは、誰にとってもその価値がわかりやすい目標です。集計時間が短くなれば、結果が早く分かることで投票した人たちの満足度は上がるし、選挙にかかるコストを減らすことができます。さらには、集計に参加する人たちの拘束時間も短くなります。
では、「労働人口の減少」や「財政改革」のような大きな課題に取り組まなければならないとき、さらにその課題が目前に迫ったものであるとき、組織を大きく動かすための目標はどのようなものがありうるのでしょうか。
ここで、埼玉県川口市の取り組みをご紹介しましょう。川口市では自治体EA(Enterprise Architecture)事業として、総務省の後押しを受け、情報システムの刷新に向け業務プロセスの見直しをも含めたプランの検討を行いました。2005年9月から2006年2月にかけて行われた取り組みの中で、最も時間を割いたのは、現状に対する職員間での認識の共有作業です。
部長クラス、課長クラス、担当者と回を分け、職員たちが集まって自分たちで議論を進めました。会議の場では「言いっぱなし」にならないよう、他の職員に分かるような形で、各人が自分の考えをカードに書いて提示することをルールとしたそうです。無数に作成されたカードを元に、市や組織などの現状を、強み、弱み、機会、脅威の4つに分類する作業を行いました。
この過程で明らかになったのは、同じ現象を前にしても職員間で受け止め方に差があることでした。たとえば、川口市の人口は現在、約49万4000人で、現在もまだ増え続けています。この人口増加に対して、市の部長クラスは「強み」と受け止めていましたが、課長クラスは「脅威」と感じていました。こう現状への認識に隔たりがあっては、そもそも市が目指すべき方向に対する考え方も大きく異なることになります。
川口市長が自治体EA事業に取り組むにあたり、2つ掲げた課題の1つは職員の体質改善でした。現状分析で見つかった職員間での認識の隔たりもまさに「気づき」と言えます。
現状に対する共通認識が生まれれば、目指すべき方向、それを実現させるための具体的な手法も自ずから明らかになります。川口市では、現状共有作業に参加した職員数は、一般行政職に消防・医療の管理職等を加えた2100人の25%相当、部長クラスは全員参加だったとのこと。組織の25%に気づきが生まれれば、変化をもたらす種は植え付けられたと言ってもいいのではないでしょうか。
なお、この川口市の事例は総務省のホームページから日誌として見られるようになっています。ご興味のある方はご覧になってみてはいかがでしょう。
【北川正恭(きたがわ まさやす)】
1944年生まれ。1967年早稲田大学第一商学部卒業。1972年から三重県議会議員3期連続当選、1983年衆議院議員初当選(4期連続)。任期中、文部政務次官を務める。1995年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改革を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。知事を2期務め、2003年4月に退任。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)代表。(北川正恭オフィシャルウェブサイト:http://www.office-kitagawa.jp)
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