地域SNSは、必ずしもすぐに軌道に乗せられなくてもいいと、前回は申し上げました。その試行錯誤の過程で、いかに紙文化からWeb文化への意識改革が必要か、自治体の職員は知ることになるからです。地域SNSという1つの取り組みを通じて、より大きな意義を持った意識改革という成果を手に入れる。それがSNSの運営に役立つのはもちろん、新しいWeb文化の視点からさまざまな業務を見直すことができるようにもなります。
こういうやり方を、私は「一点突破、全面展開」と呼んでいます。新しいことを行う際には、まず1つの取り組みに集中する。その努力の過程で「気づき」が生まれ、いろいろな方面へと波及していく。そういう例はほかにもあります。
長野県小諸市では、先日行われた長野県知事選挙の際、開票・集計の時間短縮に挑戦しました。集計の短縮は選挙事務の改善の一つとして今までにもいくつかの自治体が取り組んでおり、ある程度以上の規模を持った自治体では、東京都府中市が33分で集計を終えた例があります。これが、いわば現在の日本記録となっています。小諸市では、この記録を超えることを目標に設定しました。
数値目標ができると、そのための工夫や努力が生まれるものです。選挙管理委員会だけでは目標の達成が難しいということで、縦割りの壁を崩して、市役所全体で取り組んだそうです。陣頭指揮を執ったのは市長自身です。事前に4度行われた集計の練習にも顔を出し、さらには開票前々日にはリハーサルまで行ったそうです。
結果は、34分でした。府中市の記録に、わずか1分だけ届かなかったものの、立派な記録です。夏の暑さの中で開票作業を行ったため、投票用紙に手の汗がついてしまい、機械がうまく票を読み取れないというトラブルが起きたそうです。それがなければ、30分を切ることもできたといいます。
私たち早稲田大学マニフェスト研究所では、投票当日、小諸市に4人のスタッフを派遣して、この取り組みについて調査を行いました。そのスタッフから聞いた話ですが、集計作業の中心を担っていた職員が、集計完了後、感極まって涙を流したそうです。
その話に、私も深い感銘を受けました。
「気づき」とは、まさにこういうことを指しているのです。開票作業の迅速化は、それ自体ももちろん目的ではあるのですが、より大きな意義を持っています。小諸市では集計短縮化の取り組みが成果を上げた後、選挙事務にとどまらず、さまざまな部署で改善できる部分を改善しようという気運が高まっているとのことです。職員の意識が変わったのでしょう。その気づきこそ、大切にすべきだと私は考えています。
私が専念しているマニフェスト運動もそうです。試行錯誤をしながらマニフェストを推進していくことで、選挙制度について、さらには日本の政治そのものについても、多くの気づきが得られます。以前お話しした、お金のかからないインターネットを、なぜか選挙広報に利用できないという矛盾もその1つでした。
マニフェストは投票率が上がらなければ意味をなしません。そのためには、高等学校で選挙教育を行い、18歳から選挙権を付与することも必要ではないでしょうか。若いときから、自分たちが地域の主体だとの自覚を持つこともできます。
マニフェストという新しい仕組みを取り入れるための過程で、そうした気づきが次々と生まれてくるのです。
こうした「一点突破、全面展開」という考え方は、もっとミクロな場面にも適用できます。たとえば地域SNSなら、地域の危険情報をテーマとして取り上げるんです。落ちたら危ない古井戸がある、あるいは大人の目が届きにくい空き地があるなどといった情報があれば、子供を持つ親が積極的に利用するようになるでしょう。それによってSNSが活性化し、多くの参加者がSNSのメリットを知るようになり、危険情報以外にもさまざまなテーマができていくでしょう。
【北川正恭(きたがわ まさやす)】
1944年生まれ。1967年早稲田大学第一商学部卒業。1972年から三重県議会議員3期連続当選、1983年衆議院議員初当選(4期連続)。任期中、文部政務次官を務める。1995年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改革を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。知事を2期務め、2003年4月に退任。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)代表。(北川正恭オフィシャルウェブサイト:http://www.office-kitagawa.jp)
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