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2006年9月21日

ITが難しいのはなぜか?−Leading Edge Design山中俊治氏インタビュー(1)

赤池 学=ユニバーサルデザイン総合研究所所長

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(執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 成城大学の野島久雄教授に、「思い出工学」というコンテンツフィールドの大切さをご提言いただき、京都造形芸術大学の竹村真一教授から「地球規模の神経系を持つ、"ホモ・プラネタリウス"たれ!」というエールをいただいた私たちは、ここで敢えてITコンテンツの世界からしばし距離を置き、やさしいITのハードウエアの世界に眼を向けてみたいと考えた。インターネットの時代に何ができるのかではなく、インターネットの時代にどんなハードやプロダクトが望まれているのか。そこに問題意識を持つことは、デザインプロデューサーというものづくり屋の私にとっても、最も問題意識を感じているテーマでもある。

 さて、そのためのメンターだが、Leading Edge Design代表の山中俊治さんをお招きすることにした。日本で今、テクノロジーの進化が分かり、デザインも分かり、しかもサイエンスにもアートにも精通している傑物は多分、山中さんをおいて他にはおられない。しかも、東大時代は、機械工学をご専攻しながら、漫研でマンガを書きまくっておられたというユニークなご経歴の持ち主でもある。これからしばらく、気鋭の天才工学デザイナー、山中氏とのインタビューから、やさしいITのハードウエアの未来を縦横無尽に探ってみたいと思う。

 さて今、ITの世界に入ることができた人と、未だにITで何が変わっているのかを体感できていない人という、かなり大きな格差が未だに存在している。私たちの母親世代は特に、相当気合いを入れないとITの世界に入っていくのが難しく、彼女らはITからのかなりの恩恵を受けることが可能でありながら、ほとんどアクセスしきれていない現状がある。

 その時の大きなハードルが、いわゆるメカ、ハードウエアの問題なのではないか、と山中さんに問題提起を行ってみた。これから数回に渡ってご紹介する、山中さんが取り組まれてきた「ユーザーに寄り添うインターフェース開発」の背景にある問題意識から、今回の対談をスタートすることにしよう。山中さんはこう話し始めた。

ITのデザインに欠けているもの

「やさしいITをハードウエアとしてどう実現していくか、ちょっと哲学的な部分も含めてお話してみたいと思います。ITテクノロジーをうまく取り入れることができなかった人々の背景には、それこそ視覚情報はすごく発達してきたし、音声としても十分再現性があるし、いろいろな意味でさまざまなことが音声と視覚ではできているものの、結局、触れる部分について、ITとはこうだ、という明解なビジョンを示すことができていないという現実があるように思います。

 それはデバイスなどの技術的な問題でもあるし、デザインの問題でもありますが、要はITの可能性に対して、「手に触れる」ことの意味がこれまで充分に議論され、表現されてこなかったからだと思うんですね。

 このことは、ロボット技術と比較するとよくわかるはずです。私たちが「ロボット」と言われて何かうれしい気がするのは、単純に触れるからですよね。フィジカルな、リアルな存在としてロボットは存在していて、もちろんCGの中にはもっと立派なロボットはいっぱいいるんだけれど、あんなによたよたしていても、やっぱり実際に動く現物があると、それだけうれしいし、ロボットなるものを理解できたという気がするんですね。

 同様に、インフォメーションテクノロジーも、別に映像と音声に限らなければいけないわけじゃない。インフォメーションがもたらすものは、どんな形で人に伝えてもいいんだけど、フィジカルに伝えるという部分がうまく、今はまだまだできていないので、それがITリテラシーの向上を阻む大きな要因なのかなと感じているんですね。

 いわゆるGUIとか、フィジカルじゃないインターフェースとしての部分で、さらに高度化していくとか、最適化していくということもとても重要なんだけど、やっぱり形として目の前にある存在感と、そのインフォメーションテクノロジーとの「触れる関係」が多分、とても大事なんだろうなと思っています。そこでは、触れる=ローテクではなくて、デジタルであろうとアナログであろうと、「触った時の感触」というのを、きちんと新しい技術の上に乗っけてあげることが大切なんだと思うんですね」。

 かつて山中さんは、日産自動車に籍を置き、乗用車のデザインを手掛けていた。その後、独立した山中さんは、新幹線からJRのSUICA、そして家電、カメラ、時計、携帯電話に至るまで、多様な業界の先進的なプロダクトデザインを形にしてきたデザイン界のキーパーソンである。そんな氏から、「技術と触った時の感触」というお話を聞いて、私は氏が最近手掛けた、画期的な「大根おろし」のデザインをここで思い出したのである。

 山中さんは、「よくぞ聞いてくれました」とばかりに、笑いながらご提言を続けてくれたのだが、今週はここまで。やさしいITと大根おろしの不思議な関係については、次回改めて詳しくお伝えすることにしよう。

参考:山中氏がデザインしたロボットの一例「morph3」


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