PC Online パソコン&モバイル、インターネット情報とソフトウエア活用サイト

本文へジャンプ

特設サイト一覧
ホーム > クラウド > サービス > 目次
ログインしていません
ログイン

2006年9月14日

地域SNSのシステムを作ったのは熊本県八代市の職員でした

北川正恭=早稲田大学大学院教授、元三重県知事

印刷ページ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Clip to Evernote
  • mixiチェック
「あとで読む」機能の使い方
(執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 地域SNSなんてお役所主導でやってどうするんだ、新しいシステム開発費だって馬鹿にならないだろうに、という思いで、前回のコラムをご覧になった方もいるかもしれません。実は、今、長岡市と千代田区で動いている地域SNSのシステムは、熊本県八代市の職員が開発したものがベースとなっています。元々のプログラムをオープンソースとして扱い、他の自治体でも使用できるよう汎用性を持たせて公開したものなのです。

 実に今という時代を象徴するエピソードだと思いませんか。10年前だったら、地方自治体の職員が作ったものをベースにして皆で使おうなんていう発想はまずでなかったでしょう。ひょっとしたら、SNSを作ろうということになったら、膨大なシステム予算を取って、大手システム会社に丸投げしていたかもしれません。

 紙文化の時代には、意識の壁、縦割りの壁、行政と民間の壁など、いくつもの壁が存在しました。Web文化ではそうした壁がどんどん取り壊されて、フラットになっていくわけです。その発想がこの話を通しても実感として分かります。

 以前、一緒に仕事をしていた部下からおもしろい話を聞きました。地域SNSを運営するには、自治体側にも意識改革が求められるというのです。逆にWeb文化への意識改革が進んでいる自治体ほど、SNSの運営がうまくいくといいます。

 私なりにその理由を考えてみたいと思います。SNSに参加する人たちの立場がフラットでなければ、決して活性化しないような気がします。参加者が互いの立場や所属を意識しあうようでは、多様な参加者による情報発信というねらいは実現しないでしょう。まして、自治体職員がお上意識などを持っていたり、参加者の役職・肩書きを見ながら情報発信をしたりしているようでは、役に立つ情報は提供されませんし、一般の参加者もその「場」自体に不信感を持ってしまうに違いありません。

 今までの日本の民主主義は経済最優先だったので、経済行為に参画する世代だけが主体で、子供や退職者は切り捨てられてきました。それで日本は殺伐とした社会になってしまったのですが、SNSなら、こうした今まで切り捨てられていた層も参加できるようになります。多様な主体がフラットな関係で相互に作用し合う地域経営、多様な価値観が響き合う民主主義の実現に向かって前進できるんです。

 私は60歳を過ぎましたが、定年とか、年金生活者という言葉を聞くと、社会から余計者扱いされ、疎外されているような感覚を覚えます。しかし、そういう感覚は若いときには気がつきませんでした。世の中にはいろいろな人がいて、いろいろな考え方があるということは頭で理解しているつもりでも、本当のところは、実際に自分がその立場になってみないとわからないものです。ですから、より良い民主主義を実現するために、互いに異なる立場の人の声を聞き、対話できる場は絶対に欠かせません。

 そのフラットな対話のための場を、地域SNSの場合は役所が提供します。従って、Web文化が浸透していないままSNSを運営すると、おそらく役所から住民に対して一方的に押しつける形になり、住民が参加することを義務と感じる結果になります。

 住民側の意識としても、役所に注文を出すための新しいチャネルといった程度にしかSNSをとらえられなくなるかもしれません。しかし、役所と住民がフラットな関係で対話するためには、住民側もこれまでのように言いっぱなしではなく、自身の発言に対して責任をもつ必要があるはずです。

 それでは、役所にWeb文化が浸透し、運営体制が整うまで地域SNSをはじめてはいけないのかというと、私はそうは考えません。役所が、自分たちの組織がどれだけ改革できているかを測る道具として地域SNSをとらえてもいいと考えています。紙文化からWeb文化へ移行するための関門を、はっきりと目に見える形で示してくれる道具がSNSであり、自分たちが変わらなければならないのだということに気づき、勉強するためのきっかけにもなるのです。負けて覚える相撲というわけです。

 役所が運営せずに、民間に任せるという発想もあるでしょう。事実、mixiのような民間サービスの中の地域コミュニティの方が、地域SNSよりも参加者が多いようです。「公金を使うなら官がやるべきだ」という考え方が残っているうちは難しいでしょうが、もし将来的にこうした民間サービスをインフラとして使い、役所がファシリエーターのような役割でそこへ参加するとしても、やはりWeb文化への意識改革は求められるわけです。ですから、勉強の道具としてでも今のうちに地域SNSにチャレンジしておくことは意義のあることだと思います。

 三重県の電子会議室もそうでしたが、役所の意識改革を成し遂げてから踏み出そうとしたら、スタートラインにつくことさえ容易ではありません。それよりも、まず実際に取り組んでみて、紆余曲折を経験するのが改革の近道になるのです。やってみて、だめだと気がついたところからどんどん変えていけばいいのです。

著者プロフィール

【北川正恭(きたがわ まさやす)】
1944年生まれ。1967年早稲田大学第一商学部卒業。1972年から三重県議会議員3期連続当選、1983年衆議院議員初当選(4期連続)。任期中、文部政務次官を務める。1995年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改革を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。知事を2期務め、2003年4月に退任。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)代表。(北川正恭オフィシャルウェブサイト:http://www.office-kitagawa.jp)


連載目次(新着順)

関連記事

キーワード

ショッピング

最新ランキング

PC Online会員登録

最新刊のご案内

最新の誌面から

  • 日経パソコン 2012年5月14日号

    日経パソコン 2012年5月14日号

    パソコンを仕事と生活に活かす総合情報誌
    ・お役立ち周辺機器購入ガイド
    ・最新画像処理ソフト驚きの実力
    ・新型CPU搭載の夏モデルが登場ほか

  • 日経PCビギナーズ 2012年6月号

    日経PCビギナーズ 2012年6月号

    パソコン初心者応援マガジン
    ・必ず見つかるネット検索
    ・写真の保存&印刷決定版
    ・キーボードの便利技43 ほか

  • 日経WinPC 2012年6月号

    日経WinPC 2012年6月号

    パワーユーザーのためのPC総合情報誌
    ・Ivy Bridge大研究
    ・本気で作る小型・静音PC
    ・新世代グラフィックスボードほか

  • 日経PC21 2012年6月号

    日経PC21 2012年6月号

    ビジネスマンのパソコン誌
    ・パソコン&スマホで地図&GPS
    ・PDF「新」活用術
    ・ネットでらくらく資産管理 ほか

日経パソコンスキルアップ倶楽部