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2006年8月31日

電子会議室eデモクラシー挫折の意味

北川正恭=早稲田大学大学院教授、元三重県知事

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(執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 総務省は現在、新潟県長岡市や東京都千代田区で、地域SNSの実証実験を行っています。実は同じような試みは以前からありました。インターネットを利用して住民の地域参加を活性化させようという取り組みが全国で行われ、そこで中核的なインフラとして活用されたのが、自治体と地域住民とを結ぶ電子会議室だったのです。

 三重県でも、私が知事を務めていたときに電子会議室「三重県民eデモクラシー」を導入しました。電子会議室に着目した理由のひとつは、「補完性の原理」を地域に浸透させる道具になりえると考えたからです。地域でできることは地域でやる。受益者が特定できないなど地域がやることが難しいものは役場がやる。外交など役所でできないことは国がやる。これを補完性の原理というのですが、日本がよりよい民主主義社会を実現するために欠かせない概念だと私は考えています。

 電子会議室自体も、本来なら地域の声を反映しながら運営するべきなのですが、まだそういった意見が醸成されるほど、地域は成熟していませんでした。それで、まずは県の主導で始めました。とにかく県の方から積極的に行い、双方向の話し合いを作っていこうという目標を設定しました。

 ただし、会議室の運営管理まで県の職員がやってしまっては、どうしても敷居が高くなり、住民の声を集めることが難しくなると考えられました。それではeデモクラシー本来の趣旨から外れてしまいます。そこで、大学教授、マスコミ関係者、そして地域NPO団体の方の3人に、エディターという役割についていただき、会議室でのテーマの設定などをお願いしました。

 議論が盛り上がったテーマとしては、たとえば県立公園の整備に、どうすれば地域の声をより反映できるか、というものがあります。今までの県、つまりサプライサイドの視点では、補助金をどう使うかという発想から抜けきれません。それを地域、つまりユーザーサイドの視点へ変えようという有意義な議論が行われました。

 一方で、問題も少なからず抱えていました。電子会議室に参加する層が限られてしまっていたのです。県政に対する不穏当なクレームを繰り返し書き込まれる方もいて、対応を続けていた職員が一時ノイローゼのようになってしまったこともありました。

 結局、参加者が一部の住民に固定されてしまったために、三重県の電子掲示板は十分に機能しませんでした。現在は廃止されてしまったと聞いています。

 では、このeデモクラシーは失敗だったのか。私はそうは考えていません。私は当事者ですから、こういう言い方をすると気分を害する方もいるかもしれませんが。

 あのeデモクラシーの取り組みを通じて、行政に携わる職員たちの意識は確実に変化しました。IT時代に起きることは何なのか。それを肌身で実感したはずです。そして、今の県の組織に何が足りないのか、行政運営はどう変わらなくてはならないのかという問題意識も醸成されました。

 新しい文明の登場に備えるには、トライ・アンド・エラーを繰り返し、人間の中に経験を積ませる以外に社会を進める方法はないと思います。少なくとも、今という時代はそういうフェーズにあるのではないでしょうか。皆さんはどうお考えになりますか。

著者プロフィール

【北川正恭(きたがわ まさやす)】
1944年生まれ。1967年早稲田大学第一商学部卒業。1972年から三重県議会議員3期連続当選、1983年衆議院議員初当選(4期連続)。任期中、文部政務次官を務める。1995年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改革を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。知事を2期務め、2003年4月に退任。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)代表。(北川正恭オフィシャルウェブサイト:http://www.office-kitagawa.jp)


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