前回まで、成城大学の野島久雄教授にご登場いただき、「思い出工学」をキーワードに、属人的なITの可能性について考えてきた。そこから紡ぎ出されてきたチャーミングコンセプトは、いわば顕微鏡的な、ミクロスコピックな観点からのやさしいITの方向感である。
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竹村真一京都造形芸術大学教授 |
そこで今回からは、やさしいITの可能性をその対極にある望遠鏡の眼差しで、テレスコピックに考えてみたいと思い立った。そのためにご登場いただくスーパーバイザーはこの人しかいない、京都造形芸術大学の竹村真一教授である。
情報人類学者の竹村さんは、学者然とした美丈夫の風貌と語り口を持っているものの、その活動は常にプラグマティックで、ネットワークを駆使した実践的、先進的な情報デザイン活動をこれまでにもさまざまに形にしてきた。夏至と冬至の夜は電気を消して過ごそうという「100万人のキャンドルナイト」の仕掛け人であり、お台場の科学未来館のメインシンボル「触(さわ)れる地球」の開発者であり、業界通ならご存知の感性のインターネット博物館「センソリウム」のプロデューサーである。
| 100万人のキャンドルナイト |
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| 触れる地球 |
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| センソリウム |
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竹村さんとの出会いは、「大阪万博」から昨年開催された「愛・地球博」までの、万博総合プロデューサーを務めてこられた、尊敬する泉眞也先生のお引き合わせによるものだ。泉先生が主催するクリエイティブサロンから、私と竹村さんと、現在、奈良女子大学教授を務めるランドスケープアーキテクト、宮城俊作さんが唐突にお招きを受け、「君ら三人が連携すれば、かつてない博覧会が実現できるはず」と大層持ち上げられた記憶がある。
当時、三人は共に初対面だったが、共通点は昭和33年生まれの同級生であることで、自然も好きだが、工場群に象徴されるアーバンバナキュラな景観も共に好き、という融通無碍さも共通している。
かつて、私たちの年代は、その上の全共闘世代、団塊世代から、「しらけ世代」と揶揄されてきた。しかし、私たちにしてみれば、明治のおじいちゃんに育てられた最後の日本人として、戦前の日本人ライフスタイルを記憶し、高度成長期からバブル崩壊にいたるこの日本の歪んだ国際化への変転振りを静やかに眺めていただけである。
しかも、人口動態のボトムである私たちの世代は、数が少ないゆえに、団塊世代が六人で見ていた顕微鏡を独占できたように、団塊向けの教育基盤を少人数精鋭で堪能し、移行措置を含めて徹底した詰め込み教育でトレーニングされてきた、実は日本屈指の知的世代でもあるのだ。
そして、そんな過去世代と未来世代をつなぐ、クネクネストローの蛇腹世代にあたる「温故創新」な私たちは、「パブリックドメインソフト」などと呼ばれていた十数年前の時代から、インターネットカルチャーに身を染めてきた情報戦士でもあるのだ。
そんな竹村さんとのインタビューは、ボルネオの取材旅行の昔語りから唐突に、かつエネルギッシュに始まった。
「その時僕は、首狩り族のフィールドワークのためにボルネオの山奥にいたんですね。首狩り族のおじいちゃんから、「私が初めて首を狩ったのは、太平洋戦争の時の日本兵だった」、なんて話を聞いた後で、発動機で衛星放送テレビを起動させたところ、偶然ワールドカップのアルゼンチン戦が放映されたんですね。「マラドーナの伝説の五人抜き」を、僕はボルネオの山奥の部落で見ちゃったんです。その時僕は、マラドーナのことを知りませんでした。ワールドカップに狂喜しているボルネオの僻地の部落の子供たちから、「お前は彼を知らないのか」と笑われてしまったんですね。衛星放送を利用して世界中の僻地と呼ばれる地域の人々や子供たちが、それこそ数十億人規模で、ワールドカップに象徴されるプレイに共振できるようになった現実。インターネットが登場する前に世界が共振しているということに強い衝撃を受けた出来事でした。
そして、インターネットです。子供たちが生まれ落ちた世界の素晴らしさを、どこにいても感じられる地球人のリテラシーメディアとしてのインターネットは、「地球規模の神経系」なのだとその時痛烈に感じたんですね。ITは、決して冷たくない。世界中の僻地や都市の体温をリアルタイムで感じられる人類にとっての新しい神経系なんです。これを活用したら、「同時多発デモ」がさまざまにデザインできるかも知れない。僕の仕事は、ボルネオの山中での経験を始発駅に、すべてが始まってきたんですね。」
(次回、8月11日に続く)
【赤池 学(あかいけ まなぶ)】
1958年東京都生まれ。1980年筑波大学第二学群生物学類卒。日本で初めて「ゼロ・エミッション」の考え方を紹介した、国連大学学長顧問のグンター・パウリ氏の著書「ゼロ・エミッション(ダイヤモンド社刊)」の監修・訳を手がける。自ら設立したユニバーサルデザイン総合研究所所長として、製造科学・哲学分野の執筆、講演活動、ユニバーサルデザインに基づく製品開発、地域開発等を行う。現在、中国対外経済貿易大学客員教授、武蔵野美術大学講師、日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞審査委員、経済産業省産業構造審議会産業技術分科会委員、文部科学省革新技術審査委員会審査委員、農林水産省バイオマス・ニッポン総合戦略推進アドバイザリーグループ委員等を務める。
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