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2006年7月6日

中央集権が作った「考えない300万人」

北川正恭=早稲田大学大学院教授、元三重県知事

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(執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 先日、社会保険庁の醜態がまたしても世にさらされました。当人の確認を取らずに、未納者の国民年金保険料を不正に免除して、納付率が向上したように見せかけていた問題です。国民のための制度を自らの保身のために悪用したわけですから、非難を受けるのは当然です。

 しかし、より大きな責任は、分権化を推進してこなかった厚生労働省にあるのではないかと私は考えています。社会保険庁は、厚労省から与えられた仕事をオペレートするだけの役割しか与えられていません。職員だけはたくさんいるのにやることがないのだから、組織が腐敗するのも当然でしょう。

 国の指示を待ち、上流から流れてくる仕事をこなすだけの自治体にも、同じことがいえます。自治体では、官官接待のうまい職員が必ずといっていいほど出世をします。国から予算を取ってくるからなんです。

 高度成長期にはそれでよかったかも知れない。しかし、中央集権では、人・物・金といった資源がすべて中央、つまり東京に集まってしまいます。それを60年間も続けてしまったのだから、今や東京以外の地方は全て滅びようかというところまで疲弊しきってしまいました。

 地方が助かる道は中央集権からの脱却、つまり地方分権・地方自立を成し遂げるよりほかありません。ここで問われるのは企画力です。国から与えられる指示を待つのではなく、自分たちでミッションを作り出す必要があります。

 ところが、自治体はずっとオペレートしかやってこなかったので、企画力がまったくといっていいほど鍛えられていません。長きにわたった中央集権の体制が、考える習慣を持たない職員を、全国に300万人も作ってしまったわけです。これは、制度がそうさせたのです。

「無いものねだり」から「あるもの探し」へ

 もちろんすべての自治体に企画力がないとはいいません。たとえば、以前ご紹介した徳島県の上勝町。ITを使って、高齢者も参加できる新しいビジネスモデルを町ぐるみで作り出し、過疎の問題を克服しようとしています。

 上勝町もそうなのですが、分権・自立に向けて自治体がまずしなければならないのは、発想の転換でしょう。従来は国に対して「無いものねだり」をするのが自治体でした。これからは自分の地域に目を向けて「あるもの探し」をしなければなりません。山と海とでは解決策が違う。同じ海でも、台湾に近い海とロシアに近い海とではまた異なる解決策があるはずです。

 自治体同士の「特色競争」といってもいいかもしれません。
「地方で有数の進学校があるから、教育の町にしよう」
「環境が抜群にいいから、ぜんそくやアトピーの子供を迎え入れよう」。
 自治体は自ら考える習慣を身につけなければなりません。それは決して楽なことではないでしょうが、いやでも応でもやらざるを得ないのだから、ほかより少しでも早く取りかかって、有利に立った方がいい。

 中央集権はベルトコンベヤーに似ています。自動車メーカーのフォードは、ベルトコンベヤー方式を極めることで世界の頂点に立ちました。モノが不足していた時代には、同じモノを効率的に大量に作る必要がある。だからベルトコンベアー方式の方が都合がよかったんです。しかし、モノが十分に行き渡り、オリジナリティー・多様性が求められるようになった今の時代には、一人で一台の機械を作り上げるセル生産方式の方がマッチしています。

 作り手側から見ても、この2つには大きな違いがあります。ベルトコンベヤー方式では人が機械に使われていましたが、セル生産方式では人が機械を使います。「やらされ感」をもって渋々動いていたのが、「達成感」が得られるようになり、能動的になる。そこに創意工夫が生まれます。セル生産方式の方が、はるかに人間的でしょう。そのような意味で、これからのコミュニティー運営を「セル生産」にすることが重要です。

 ITによる技術の波は日本の組織や社会構造を集中化から分散化へ変えようとしています。行政も例外ではなく、中央集権から分権への動きが加速されていくのです。今、「全国の自治体職員」は自分自身の働き方の根本的な部分の見直しが求められていると言えます。しかし、それは必ずしも苦しくつらい取り組みではないはずです。長年慣れ親しんだ中央集権の考え方から抜け出すのは大変かも知れませんが、「やらされ感」から「達成感」が得られる能動的な仕事が中心になると考えれば、前向きに取り組めるのではないでしょうか。

著者プロフィール

【北川正恭(きたがわ まさやす)】
1944年生まれ。1967年早稲田大学第一商学部卒業。1972年から三重県議会議員3期連続当選、1983年衆議院議員初当選(4期連続)。任期中、文部政務次官を務める。1995年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改革を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。知事を2期務め、2003年4月に退任。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)代表。(北川正恭オフィシャルウェブサイト:http://www.office-kitagawa.jp)


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