「会社のDNA」といえば、目に見える形にはなっていなくても、その社員に脈々と受け継がれ、あまねく浸透している社風や文化を指します。以前、ITが形式知であるのに対し、紙文化は暗黙知であるというお話をしました。DNAは、この暗黙知と非常に近い意味を持つと思います。
50年続いた組織のDNAには、50年分の暗黙知が記録されています。その中には、組織をリスクから守るための知恵も必ず含まれているものです。そうでなければ、50年も続かなかったでしょう。
一度築かれた体制がなかなか崩れないのは、身を守るためのセキュリティがDNAの中にしっかり組み込まれているからなのです。ただし、その暗黙知には組織を硬直させるというマイナスの側面もあります。
そうした強い体制が支配する社会に変化がもたらされるためには、ベンチャー企業のような新しい勢力が必要になります。ベンチャーはセキュリティが欠けている代わりに、走るスピードだけはとにかく速い。その、走ることだけを指向したバランスを欠いたDNAこそ、ベンチャーがベンチャーたるゆえんです。
村上ファンドやライブドアは、ベンチャーの典型といえます。株主重視という、日本の企業に欠けていた概念を世の中に広く浸透させたのは、村上ファンドの功績であり、一方のライブドアは、友好的な買収しか知らなかった日本企業に対し、敵対的買収という脅威があることを知らしめました。日本の資本主義も大きな犠牲を払いましたが、資本主義がより高度なものへと発展するためには、どちらも通らなければならない関門であったと思います。
村上ファンド、ライブドア共に暗黙知というセキュリティが欠如していました。これは組織としてはやってはいけないことだと判断できるだけの暗黙知を備えた組織風土や人間がいないために、越えてはいけない一線を踏み越えてしまい、代表者の逮捕という最悪の事態を招きました。
変革の促進剤としての規制
DNAにセキュリティを持たないベンチャーが暴走するのを防ぐためには、外から規制する必要があります。規制というとベンチャーいじめのように聞こえるかも知れませんが、決してそうではない。ベンチャー企業には、走り続けて、社会をどんどん変えてもらわなければならない。その力を持続させるためには、健康でいてもらう必要があるのです。
それに、今回のように逮捕者が出る事態にまで至ってしまうと、ベンチャーに対する否定的な見方が社会の中で支配的になってしまいます。もとより、従来の秩序が崩されることを旧体制は望んでいません。ひいては変革の機運そのものが、社外全体から奪われてしまうおそれすらあります。
単にコンプライアンスを徹底せよ、と声高に叫ぶだけでは足りません。ベンチャーが適切なリスクマネジメントを実現できるよう、「ここまでやるのか」というところまで綿密に、漏れのないルールを作るべきです。法整備はどうしても変革の後追いになりがちですが、そこを何とか先回りして、リスクをつぶしておかなければならない。
同じことは、ICTの推進についてもいえるでしょう。リスクマネジメントが欠けていると、Winnyのように、ICTに対するマイナスイメージを社会に植え付ける問題が出てきてしまいます。新しい価値が生まれ、育てられるためには、変革を促す促進剤としての規制なりセーフティネットのようなものを早急に整備することが重要になるのです。
【北川正恭(きたがわ まさやす)】
1944年生まれ。1967年早稲田大学第一商学部卒業。1972年から三重県議会議員3期連続当選、1983年衆議院議員初当選(4期連続)。任期中、文部政務次官を務める。1995年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改革を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。知事を2期務め、2003年4月に退任。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)代表。(北川正恭オフィシャルウェブサイト:http://www.office-kitagawa.jp)
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